火星研究最前線

面白い本を見つけた。火星にかつて「多細胞大型生物が存在した」と言い切っている本は、おそらくこれが初めてと思う。

「火星の生命と大地46億年」講談社 2008年発行
丸山茂徳/ビックベーカー/ジェームス・ドーム著
ベーカーは1988年アメリカ地質学会会長でアリゾナ大教授。ドームは同研究員でNASAに従事したこともある火星の地質、表層堆積物の専門家。丸山氏は東工大教授で、地球のプレートテクトニクスの不完全性を克服するプルームテクトニクスの提唱者として有名、ベーカーに招かれ火星に関する共同研究を推進。アリゾナ客員教授

「火星は地球と同じく、四六億年前に誕生した。だが火星の体積は、地球の1/8の大きさなので地球よりもずっと早く冷却した。地球に似た水惑星だったが死に急いだ星だ。たった六億年の寿命しかなかった。しかし、火星には地下生物圏が今も活動している。過去、地球と似た表層環境が生まれ、酸素大気の元で生物は大型化したが、知的生命体に進化することなく絶滅してしまった。」(頁4)
地球の深地下、マントル層の動きを解読したプルームテクトニクス理論は火星でも採用され、複数の探査機から送られてくる最新データを得て、謎だらけの火星史をダイナミックに読み解いていく。その研究からは以下のことが確実視されている。
■過去のある時代には現在の地球磁場の10倍の強度を持つ磁場が存在した。
■過去の火星大気の酸素濃度は現在とは違っていた。
■過去のある時代までは大海洋が存在していた可能性が大きい。(頁160)

有害な宇宙線をブロックする磁場、(地球よりはるかに低かったとはいえ)酸素濃度の高い海と大気、そんな環境が六億年続いたのなら多細胞生物が生まれていても不思議は無い。ちなみにアリゾナ大はハブル天体望遠鏡、火星探査機、水星探査機など全てのNASAのミッションに関わっている大学で、そこでの研究成果なら火星研究の最前線に位置しているのは明らかだ。